１ 経緯
これまでもお伝えしているところですが、横浜新市庁舎移転計画及び住民訴訟の経緯を簡単におさらいします。
H20.3.12 横浜市とＵＲの間で、「北仲通南地区敷地譲渡契約」を締結
H25.3.28 横浜市が「新市庁舎整備基本構想」を公表
H25.5.31 新市庁舎整備基本計画策定調査委託契約締結
H25.7.24「基本構想」に基づいて北仲通南地区に新市庁舎を建設することを目的とする公金の支出及び地方債の発行をしないよう勧告することを求める監査請求
H25.8.29 監査請求を実施しない旨の決定
H25.9.27 一次提訴
H26.2.19「基本構想」に基づいて北仲通南地区に新市庁舎を建設することを目的とする設計業務委託契約，工事請負契約その他の契約を締結しないよう勧告することを求める監査請求
H26.3.12 監査請求を実施しない旨の決定
H26.3.28 横浜市が「新市庁舎整備基本計画」を公表
H26.4.1 市民意見募集
H26.4.14 二次提訴
H26.6.30 公共事業評価委員会開催
H26.8.21 事前評価調書確定
H26.9.3 市庁舎の位置条例変更・移転新築工事技術提案等評価委員会条例を可決
２ 「門前払い」の却下判決
この横浜新市庁舎住民訴訟で、平成２６年１２月１０日、却下判決がされました。
この判決は元々、原告側が中間判決として裁判所に求めた、訴訟の適法要件に関する判断です。
「中間判決」とは、簡単に言いますと、訴訟の中の特定の争点を対象に一旦判決をしてその争点についてだけ決着をつけるものです。
もっとも、今回は、結果的に訴訟自体を却下としたため、終局判決ということになってしまいました。
本件判決の対象となった争点は、
（１）本件差止訴訟における差止対象が特定されているかどうか
（２）仮に差止対象が特定されているとしても、監査請求の時点で、当該行為がなされることが相当の確実さをもって予測できたかどうか
です。
これらは、「差止訴訟」の訴訟としての適法要件です。
すなわち、これら（１）（２）のいずれかが否定されると、差止訴訟は不適法として却下、つまり訴訟自体が門前払いされることになります。
被告横浜市長は、提訴後１年あまりの間、市庁舎移転事業の内容の当否に入る前に、この「門前払い」を求めていました。
これに対し、原告は、過去の最高裁判例を引いて、市庁舎移転事業はいずれの要件も満たすケースであることを主張してきました。
そして、１２月１０日、横浜地方裁判所第１民事部（石井浩裁判長）は、（１）を認めつつ、（２）を否定しました。
つまり、（２）の要件を欠くことを理由に、この訴訟の「門前払い」を認める判決をしました。
裁判所は市庁舎移転事業の当否の判断を一切せずに、訴訟を終わらせたのです。
３ 「門前払い」の理由
なぜ、「監査請求の時点では当該行為がなされることが相当の確実さをもって予測できるとはいえなかった」という判断がされたか、判決によると、その理由は概ね、次の通りです。
監査請求の時点を基準とし、
①「基本構想」段階では、北仲通南地区だけでなく港町地区を予定地とする案も含まれており、未だ市庁舎整備事業の実施を決定したものとまではいえないし、計画変更の可能性もあった。
②「基本計画」策定、市民及び公共事業評価委員会からの意見聴取、市議会の予算議決、認可手続等の手順が未だ踏まれていなかった。
③横浜市は株式会社松田平田設計との間で業務委託契約を締結しているが、これは基本計画の策定に係る調査委託をするための契約にすぎず、しかも北仲通南地区と港町地区を対象としていた。
従って、本件差止訴訟に先行する監査請求が不適法であったため、「門前払い」とする、というものです。
４ 却下判決の不当性
この却下判決は、事実誤認があるのみならず、最高裁判例に照らしても不当なものです。
（１）判決の事実誤認
「基本構想」には「北仲通南地区での整備案が最適な案であると考えられますので、今後、北仲通南地区を整備予定地と位置づけ、検討を進めます。」と明記されており、港町地区を整備案として残してあったとの認定は事実誤認です（①の誤り）。
基本計画策定調査委託契約は、北仲通南地区を対象とするものと関内地区及びその周辺を対象とするものの２つが存在し、前者は移転先についての調査、後者は移転後の港町地区の「まちづくり」の調査です。受託業者はそれぞれ異なります（③の誤り）。
（２）最高裁判例に照らしての不当性
最高裁は平成５年に、今治市で埋立計画が検討中の段階でなされた住民監査請求及びこれに続く住民訴訟の適法性を認めています。
この事件では、住民監査請求の段階で、計画の策定や予算議決もなく、認可処分等行政上の手続もされていませんでした。
ところが、本件の却下判決では、「基本計画」策定、市議会の予算議決、認可手続等を要求しています。これは最高裁判例から照らして明らかに不当です（②の誤り）。
５ 却下判決を受けての方針
本件却下判決は、不当性が明らかであることから、控訴をして高等裁判所でこれを是正する方法も考えられました。
他方で、監査請求が「不適法」とされた場合、改めて監査請求を行なうことができます。
本件却下判決の指摘した①～③は、あくまで平成２５年７月及び平成２６年２月時点の監査請求時のことです。
監査請求の後に基本計画が策定され関係条例が可決される等、市庁舎移転計画は相当程度進行しています。
従って、計画が相当程度進行した現時点で改めて監査請求をし、仕切り直して訴訟提起すれば、今回の判決の理屈によっても、「門前払い」を避け得ることも考えられます。
弁護団としては、後者の手段、すなわち、計画が相当程度進んだ現時点で改めて監査請求をし、仕切り直しの訴訟を起こす、という方針を採用しました。
控訴を経ると時間がかかってしまい、「東京オリンピックまでの完成」を目指して急ピッチで進む市庁舎移転計画の差止が実現できなくなる可能性を考慮してのものです。
６ 昨年末の新たな監査請求申立て
上記方針に基づき、平成２６年１２月２４日付で改めて監査請求申立てを行ないました。
申立の趣旨は、
「基本計画」に基づいて北仲通南地区に新市庁舎を建設することを目的とする設計業務委託契約、工事請負契約、その他の契約を締結すること及び公金の支出及び地方債の発行をしないよう勧告することを求める
というものです。
不適法とされた従前の監査請求と異なり「基本構想」ではなく、その後に公表された「基本計画」に基づく行為を対象としています。
なお、却下判決後、１２月１８日には、「新市庁舎整備計画概要について」との資料が横浜市総務局から配布されており、同資料によると、延床面積を基本計画段階の１４６，８００㎡から１４０，８００㎡に縮小する一方で、費用概算がこれまでの見積もり額約６１６億円から約６６７億円と大幅に上がっていることが明らかになりました。
これまで、以下のように、延床面積はどんどん縮小され、反面、建築費用は増額の一途を辿っています。
H25.3.28 基本構想 164,000㎡ 603億円 （36.8万円／㎡）
H26.3.28 基本計画 146,800㎡ 616億円 （42.0万円／㎡）
H26.12.18 整備計画概要 140,800㎡ 667億円 （47.4万円／㎡）
７ 今後について
今後は、仕切り直しの訴訟で、裁判所に門前払いさせることなく、ＵＲとの無効な契約を根拠とする北仲通南地区への多額の費用をかけた市庁舎移転が違法である、という本当の争点（詳細は広報第１１９号をご参照下さい）について、裁判所に判断をさせるために手続を進めて行きます。
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