１．議会議員政治倫理条例制定の背景
衆議院選挙区神奈川４区において、平成12年（2000年）に、鎌倉市、逗子市および葉山町の市議・町議を巻き込んだ飯島忠義（自民）事後買収、いわゆる飯島事件があった。
飯島事件とは、飯島忠義（自民）候補が衆議院選挙後の7月中旬、鎌倉市議5人、逗子市議8人、葉山町議10人と自民党役員1人の計24人に、票の取りまとめの報酬として、15人に商品券（計100万円相当）を配り、9人に商品券（計85万円相当）を渡した選挙違反事件。商品券を受け取り使用するなどした議員ら15人が同法違反（被買収）容疑で書類送検され、10月27日横浜地検から起訴猶予処分を受けた事件である。
この事件を機に、葉山町議会では平成14年11月に葉山町議会議員政治倫理条例が議会提出議案として制定された。（以下、自治体名の如何にかかわらず総称として「政治倫理条例」）。
葉山町の条例は、町議会議員は町政に対する町民の信頼に応えるとともに、清廉かつ公正で開かれた民主的な町政の発展に寄与することを目的とし、政治倫理基準、政治倫理調査請求権、調査の為の政治倫理審査会（以下、「政倫審」）、調査結果に対する議員及び議会の措置等を定めている。条例はその後、議会改革の一環で平成25年に大幅改正（後述）されている。
－近隣市議会等での条例制定状況－
鎌倉市議会では飯島事件の後、議員の政治倫理確立を目指す決議がなされ、その後時を経て平成24年に議員政治倫理基準が制定されたが条例制定には至っていない。
逗子市議会では、平成26年に議会基本条例制定に合わせ政治倫理条例が制定された経緯がある。
近隣では他に横須賀市議会も葉山町と同じく平成14年11月に政治倫理条例を制定しているが、横浜市議会および神奈川県議会は条例制定は無く、議会基本条例で、“政治倫理の向上に努め、公正かつ誠実に職責を全うし、市民の代表として良心及び品位を保持し、識見を養うよう努めるものとする”ということを定めているに過ぎない。
政治倫理条例には言及していないが、神奈川新聞では平成26年8月20日に社説で地方議員の質について次のように取り上げている。
【社説】地方議員、関心持って質向上へ
地方議員の質が問われている。東京都議会での女性蔑視発言や、号泣会見が話題となった兵庫県議の政務活動費疑惑など、地方議員の不祥事が相次いだ。
兵庫県議で注目された政活費は、これまでも「第２の給与」と揶揄（やゆ）され、飲食代など使途をめぐる住民訴訟では返還命令も出ている。今でも使用目的に詳細な報告書提出を義務付けていない議会もあり、議会間で温度差がある。今回を機にチェック機能の強化を図り、議員自身が襟を正すのは当然だ。
さらに青森県平川市議会では定数２０人のうち１５人が市長選をめぐり公職選挙法違反の疑いで逮捕された。地元・神奈川でも県議が危険ドラッグ所持の薬事法違反容疑で逮捕と、あきれて物も言えない事態だ。（後略）
２．葉山町議会政治倫理審査会の実際
－政治倫理基準－
葉山町議会議員政治倫理基準は、政治倫理条例 第３条で以下のように定められている。下線の（1）項は近隣自治体政治倫理条例（基準）には無い葉山町議会独自のものである。
(１) 町民全体の代表者として、その品位と名誉を損なうような一切の行為を慎み、その職務に関して不正の疑惑を持たれるおそれのある行為をしないこと。
(２) 町民全体の代表者として行動し、その地位を利用していかなる金品も授受しないこと。
(３) 町が行う許可、認可等の処分又は行政指導に関し、正当な理由なく、特定の者に対して有利又は不利となるような取り計らいをしないこと。
(４) 町又は町が出資その他財政的援助等を与えている法人が発注する工事、製造その他の請負契約、業務の委託契約及び物品の購入契約等（以下「工事等の契約」という。）又は指定管理者の指定に関して、特定の者に有利又は不利になるような取り計らいをしないこと。
(５) 町職員の公正な職務執行を妨げ、その権限又はその地位による影響力を不正に行使するよう働きかけないこと。
(６) 町職員の採用、昇格又は異動に関し、議員の地位による影響力を行使しないこと。
(７) 政治活動に関する寄附について、政治的又は道義的な批判を受けるおそれのあるものを受けないこととし、議員の後援団体についても、同様の措置を執ること。
－平成25年に政治倫理条例大幅改正－
平成25年の条例改正で、政治倫理調査請求が「有権者１人」から、議員の場合5名の同意議員が、一般有権者の場合50名の同意署名・捺印が必要となり請求のハードルが高くなった。
同時に政倫審委員も9人以内の議員から5人以内の学識経験者及び有権者へと第三者委員
へと変わった。
（政治倫理条例を持つ逗子市議会・横須賀市議会では、調査請求は有権者１人でできるが、政倫審委員は議員である（後掲 表１参照）。また、横須賀市議会は政倫審にかけるかどうかを議会運営委員会で決める。）
－初の第三者委員による政倫審－
政倫審は原則公開である。
第三者委員による初めての葉山町議会政倫審は、ある議員の町有物私物化に対する議員による調査請求で平成27年3月に開催された。
この時の政倫審委員は、学識経験者として葉山町非常勤特別職の情報公開審査会委員を務める弁護士1名、町政に係る町内団体代表3名で構成され、議員は一人も入っていない。
審査結果は、倫理基準の（1）項と（5）項に抵触すると結論づけられたが、該当議員は直後の選挙で落選したので条例9条に基づく政治倫理確保の為の必要な措置は講じられていない。
－2度目の第三者委員による政倫審－
2度目の葉山町議会政倫審は、65名の有権者同意署名・捺印（条例では50名）を付して私が代表調査請求者として平成27年10月22日に調査請求し開催されたものであるので少し詳しく説明する。
この時の政倫審委員は前回から町政に係る町内団体代表3名が入れ替わった。
＜調査請求の内容＞
横山すみ子・金崎ひさ両町議は、自身の会派広報誌「新葉クラブ町政報告」 第32号（平成27年4月15日発行）」に、真偽不明な記事（関係当事者から聞いた話として、山梨崇仁町長が守屋亘弘前議員に職員地域手当6％減額条例改正の議員提案を頼んだ）を掲載して町議選直前に葉山町内に配布し、町長と前議員の名誉を著しく傷つけただけでなく、有権者の誤解を煽り間違った概念を植え付けた。
これは、政治倫理条例 第３条（政治倫理基準）(１) 「町民全体の代表者として、その品位と名誉を損なうような一切の行為を慎み、その職務に関して不正の疑惑を持たれるおそれのある行為をしないこと」に抵触するというもの。
65名の署名は、選挙管理員会によって選挙人名簿の確認が行われ全署名が有効と認められた。
＜政倫審経過＞
第１回葉山町議会政倫審は、平成27年12月18日に開催され、調査対象の2町議の弁明と関係当事者として守屋亘弘前議員の意見陳述があった。
この時、調査対象2町議の弁明は「守屋亘弘前議員から議場外で聞いたのは事実であり証人もいる」と聞いた話として強調したが、守屋亘弘前議員は言っていないと陳述し、食い違いが生じた。
第２回目は平成28年1月7日に開催され、代表調査請求者の私が以下の請求趣旨説明を行った。
◆町長が議員に条例改正を頼んだことが事実とすれば、二元代表制を揺るがす由々しき問題であることが前提にある。
◆事実かどうか不確かなこと（真偽不明なこと）を事実確認もせず、聞いた話だとして選挙直前に「町政報告」に書いて新聞折り込みし町民の誤解を煽ったことが問題であり、誰かが言った、誰から聞いたということが問題ではない。
◆文面はあたかも山梨町長が守屋前議員に地域手当6％減額条例改正を頼んだかのようにとれる。
◆横山・金崎両町議は、議員としての模範を示すべき、時の葉山町議会議長と議会運営員会委員長の要職であった。
政倫審会長から、当政倫審は聞いた聞かないことについての事実確認はしないことを承知置き下さいとのコメントがあり、その後、約1時間の秘密会審査に入った。
秘密会の後、以下の調査結果報告が政倫審で朗読され近藤昇一議長に手渡された。
“適切な裏付け調査を行わずに作成された町政報告を、当時、町議会議長という要職にあった当該議員が、町議会議員選挙の11日前に発行することは、町民全体の代表者として、高い品位が望まれる議員の行動としては、軽率であったとの批判を受けてもやむを得ない。
よって、葉山町議会議員政治倫理条例第3条第1号に規定する政治倫理基準に抵触していると判断せざるを得ず、同条例に違反していると判断する。なお、当該議員においては、本審査会の判断を糧にして、これまで以上に町民の範として議員活動に邁進して頂きたい“
＜議員及び議会の措置＞
政倫審調査結果に対し、1月13日に横山すみ子・金崎ひさ両町議より近藤昇一議長に「2月下旬～3月上旬発行予定の『新葉クラブ町政報告』に、政倫審の調査結果報告書を掲載し、結果を真摯に受け止めお詫びと今後細心の注意を払って慎重な対応することについて掲載し新聞折り込みする。尚、この新聞折り込みの費用には政務活動費は使用しない、文面に慎重をきすため時間がほしい」との議員措置の説明があった。（1月14日の議会運営委員会 近藤昇一議長より報告より）
３．条例改正による葉山町議会政倫審に思うこと
政倫審は政治倫理基準の第1号に抵触したとして2町議に政治倫理違反との結論を出したが、この政治倫理基準第1号は先に述べたように葉山町独自のものであり基準の高さをうかがわせた。
また、葉山町議員には失礼だが、条例改正前の議員による政倫審であったなら、議論は弁明議員のいう“聞いたことが事実かどうか”に終始し、代表調査請求者のいう“事実かどうか不確かなこと（真偽不明なこと）を事実確認もせず広報誌に書いたこと”の是非は議論されなかったであろう。
最終審査は秘密会であり何が議論されたかどうかわからないが、聞いた話だから何を広報誌に書いていいということは否定されたと言える。
調査請求が50名以上の有権者の署名・捺印が必要になり、ある意味請求のハードルが高くなったが、第三者委員による葉山町議会の政倫審は評価に値する。
|