１．
カジノ解禁法が昨年１２月１５日に国会で成立し、同月２６日に施行された。正式な名称は、「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律」という長いものだが、カジノは「特定複合観光施設」すなわちＩＲに不可欠の構成要素であるとこの法律に明記されている。
２．
この法律は、政府に「ＩＲ区域の整備を推進する責務」を負わせる基本法であり、政府はこの基本法施行後１年以内に必要な法制上の措置、すなわち実施法を作らなければならない。
その手順として、まず制度設計に関する与党間協議（自民＋公明＋維新）を行ない、その結論を受けて首相をトップとする「推進本部」がカジノ実施法案を練り上げる、ということになる。
「推進本部」には経産省、観光庁、警察庁、厚生省などから５０～６０人のスタッフが送り込まれる予定だ。
３．
カジノ基本法の成立について林横浜市長は、「カジノを含めたＩＲ導入は、横浜の持続的な経済成長のためには必要だ」（１２月８日市会本会議）、「経済活性化、観光立国に向けた大きな一歩だ」（１２月１５日定例記者会見）と、高く評価している。
政府がカジノ実施法案を政府が検討するのと併行して、林市長は市内各区で「説明会」を行なった上で、横浜市をＩＲ区域に指定してほしいという意向表明をする予定であると言われている。
４．
カジノ推進派の大義名分は、「カジノは観光産業を活性化させ、国内消費が拡大する」という点にある（自民党の２０１４年選挙公約）。
横浜市が日本経済研究所に委託してまとめさせた「検討調査報告書」（２０１５年３月）には、横浜市にＩＲが出来れば（一回限りの建設投資とは別に）、「毎年４，１４４憶円の経済効果が発生する」と書かれている。この数字が「一人歩き」して今日に至っている。
５．
しかし、報告書自体の中で「この結論」に至った「理由」づけをチェックすると、その立論があまりにデタラメであることがわかる。
立論の大前提は、日本の成年人口（１０３００万人）の３４％がＩＲを利用し、その５４％が平均２回横浜のＩＲへ行く、というものである。
すなわち、１０３００万人×０．３４×０．５４×２＝３，７８２万人がＩＲを目指して来浜する、という命題がすべての出発点となっている（カジノで遊ぶ日本人はＩＲに来た人の１５％にあたる５６７万人で、これに外国人１４１万人が加わるという想定）。
ところで横浜市への観光客は、現状（２０１５年度実績）で年間のべ３，７６１万人である。
「ＩＲに集まる３，７８０万人」は、この３７６１万人に対する「純増」となるのか、現状の来浜者が横スベリする分を含むのか―この肝心の点について「報告書」は何も語っていない。
６．
それから１年半が過ぎた２０１６年１１月には、横浜商工会議所が「ＩＲ研究会報告書」を公表した。こちらの想定は横浜市の委託調査よりも更に「強気」である。
すなわち、毎年のカジノ客は２，１００万人（市の委託調査では上述のとおり５６７万人＋１４１万人＝７０８万人）、カジノ売上は１，４００億円（同８５０億円）、来場者消費は２，２５３億円（同１，７００億円）という数字が出発点となっている。
これは１９９７年にオープンしたメルボルン（オーストラリア）のＩＲクラウン・リゾートの実績値であるという。
７．
ところが、横商の報告書に収録されている現地の責任者（メルボルン市当局およびクラウン・リゾートの幹部）との対談の記録をよく読むと、つぎのような事実が現地側から説明されている。
すなわち、
（１）利用者の６０％はカジノから１時間以内の地元客である。
（２）大型会議施設（ＭＩＣＥ）の最近１年間の利用回数は２０９回あったが、来場者数は計７２，２６８人だった（つまり１回あたり平均３４５人と、会議の規模は極めて小さい）。
（３）ホテルの稼働室数は１５２，０４８室、すなわち１日平均４１６室であって、１，６００室というキャパシティに対して非常に空室率が高い。
要するにメルボルンＩＲの実績は、ほとんど既成消費地と地元客を食いあっているだけと見るほかはない。
このようなメルボルンの実例が横浜活性化のモデルになるなどとは、財界人の考えることであろうか。
８．
林市長がＩＲを誘致しようと考えている山下埠頭の敷地は、全面積４７ha（東京ドームの約１０倍）の７０％を横浜市が所有している。
カジノはギャンブル依存症という精神疾患を必然的に発生させるビジネスであるが、地方自治体には法律（精神保健法第２条）により、「精神疾患の発生を防止する義務」が課せられている。
従って、市の土地をカジノビジネスの利用に供することは違法である―これが、私たちのよって立つ基本的スタンスである。
９．
そもそも、ＩＲの本質はカジノ収益を使ってエンタメ施設やモールにおけるサービスを安価に提供し、それによって大量の集客をはかり、客を外へ逃さないというシステムにある。
カジノ客を魚に例えると、ヨーロッパの伝統的なカジノは魚が寄って来るのを釣り人が待つ磯釣りに類するのに対して、ＩＲはトロール漁船による一網打尽漁法にあたる。
従って「集客」の大部分は、メルボルンモデルにあるように周辺地域の客の囲い込みにならざるを得ない。
心ある財界人ならば、ＩＲで地域が活性化するなどというヨタ話に賛同する筈はない、と私は考えるのだが、どうだろうか。
|